《MUMEI》 . スガイは、机の引き出しから電卓を取り出して、軽やかにキーを打ち、計算した数字をわたしに見せました。『復讐代行』の料金でした。 それは、銀行員から貰った例の金を使っても、足りない金額でした。 それでも、諦めきれなかった。 「足りない分は、必ず返す。何をしてでも絶対に払うから…」 わたしが必死に説得すると、スガイは眉をひそめてしばらく黙り込み、深いため息をついて、「俺は義理人情に弱いから、商売が成り立たないんだ…」とぼやきました。 彼はわたしの顔を見つめ、「わたしの全財産に見合う分だけの依頼を引き受ける」と答え、 その別れ際、 「どんなことになっても、後悔だけはするな。あんたが望んだことなんだから」 そう、唄うように言いました。 わたしはゆっくり頷き、そのまま事務所から出て行きました。 ―――それから、1週間が過ぎた頃でしょうか。 先輩が事故で死んだと、噂で聞きました。 それを始まりとして、 わたしをレイプしたと思われる男達が、突如として起こった爆発事故の犠牲となり、 遊びで付き合っていた男達も、それぞれが何らかの不幸に見舞われたようです。 あの銀行員も、わたしとの関係と大量の横領を世に知らしめられ、社会から完全に追放されました。 新聞やテレビで連日報道されるニュースを見て、 全てはスガイによる『復讐代行』である事を理解したのと同時に、 わたしは、ただ茫然としました。 契約通り、スガイはわたしの『復讐』を実行してくれました。 けれど、 それによって、わたしは何を得たのだろう。 あの爆発事故によって、関係ない人びとまで、被害に遭ったようです。 銀行員の横領を暴露した事で、彼の勤め先の信用と、彼の家族にとても深い傷を負わせたのでしょう。 ニュースを見る度、わたしは一体何を望んでいたのか、わからなくなっていったの。 . 前へ |次へ |
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