《MUMEI》
小林アコ
「アコちゃん…」

叔母は私の名を呼び、そっと抱きしめた。
多分、その声は哀れみを帯びていたのだろう。

叔母は泣いていた。


私はただ無表情で叔母に抱かれたまま、他の大人達を見つめていた。


叔母と同じように泣いている人も居れば、怒りに打ち震える人もいる。

それが何故なのか、子どもの私には分からなかった。
ただ、その様子を見ていると、だんだん不安になって、私はソワソワした。

親を探していたのだ。

しかし、その大人達の中に、父と母の姿が見当たらない。
いよいよ不安になった私は、すぐさま叔母の手から離れ、二人を探そうと大声で呼んだ。

「あーあーぅ!」


二歳の子供なら既に言葉を覚え、話せる。

だが、生まれつき耳の不自由な私には、まともに喋る事が出来ない。
だから、単に『声を出す』事しか出来なかった。


それでも、叔母は悟ってくれたらしい。
私が両親を探しているという事に。


叔母は、もう一度私を抱いた。


「今日からは、お姉ちゃんの変わりに私がお母さんだからね。」


私を抱きしめた腕に力がこもる。
私が苦しくなる程に。

だが今思えば、それが叔母の決意の証だったのだろう。

これから先、ずっと背負わなくてはならない苦労を覚悟した、叔母の決意の瞬間だった。



作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫