《MUMEI》 小林アコ「アコちゃん…」 叔母は私の名を呼び、そっと抱きしめた。 多分、その声は哀れみを帯びていたのだろう。 叔母は泣いていた。 私はただ無表情で叔母に抱かれたまま、他の大人達を見つめていた。 叔母と同じように泣いている人も居れば、怒りに打ち震える人もいる。 それが何故なのか、子どもの私には分からなかった。 ただ、その様子を見ていると、だんだん不安になって、私はソワソワした。 親を探していたのだ。 しかし、その大人達の中に、父と母の姿が見当たらない。 いよいよ不安になった私は、すぐさま叔母の手から離れ、二人を探そうと大声で呼んだ。 「あーあーぅ!」 二歳の子供なら既に言葉を覚え、話せる。 だが、生まれつき耳の不自由な私には、まともに喋る事が出来ない。 だから、単に『声を出す』事しか出来なかった。 それでも、叔母は悟ってくれたらしい。 私が両親を探しているという事に。 叔母は、もう一度私を抱いた。 「今日からは、お姉ちゃんの変わりに私がお母さんだからね。」 私を抱きしめた腕に力がこもる。 私が苦しくなる程に。 だが今思えば、それが叔母の決意の証だったのだろう。 これから先、ずっと背負わなくてはならない苦労を覚悟した、叔母の決意の瞬間だった。 |
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