《MUMEI》 *. ―――最後まで読み終えて、 俺は、風子の手紙をギュッと握りしめた。クシャ…と微かに紙が擦れる音がする。 上手く力が制御出来ない。指が小刻みに震える。 その度に紙がカサカサと悲しく鳴った。 …違う。 違うんだ、風子。 君は、間違ってる。 ポタリと、手の甲に熱い雫が零れ落ちた。俺の、涙だった。 その後も、ポタポタ、ポタポタと、涙は止めどなく溢れては降り注ぐ。 …違うんだ。 君の言う通り、確かに世界は汚れてる。 信じられないようなひどい出来事が蔓延っているし、本当に辛く苦しいことばかり起こってる。 そんな醜い世界の中で生き抜くには、 ―――風子、 君の心は、あまりに美しすぎた。 君は純粋で、どこまでも真っ直ぐで、 だからこそ、卑しい人間達に、その清らかな想いを利用され、踏みにじられて、 二度と立ち直れない程、 滅茶苦茶に傷つけられてしまった。 憎むべきは、この世界。 そして、君を苦しめた奴らだ。 君を、軽蔑なんかしない。 俺だって君と同じ気持ちだ。 …ただ、 そこまで世界に失望していたのなら、 どうして、俺に吐き出してくれなかった? なぜ、全ての苦しみを独りで受け止めようとした? もしも、君がその胸の痛みを、素直にさらけ出してくれたなら、 二人でもっと違う方法を、一緒に導き出せたかもしれない。 例え、現状を何も変えることが出来なかったとしても、 二人で慰め合って、涙を流すことくらいは出来た筈だ。 . 前へ |次へ |
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