《MUMEI》 . ―――どのくらい、そうしていただろうか。 泣いて、泣いて、泣き疲れて、俺は風子の手紙をグシャグシャに握りつぶしたまま、放心していた。 ぼんやりと、青い空を眺めていると、 背後で、ドアが開く音が聞こえた。 俺はゆっくり振り返り、少し目を見張る。 屋上の入り口のドアに、喪服を着た晶子が、立っていた。 彼女は、泣き腫らした俺の顔を見て、一瞬、痛ましそうに目を細めたが、すぐに笑顔を作った。 「やっぱりここにいた…」 「わたし達、変わってないね!」と、軽やかな抑揚で呟きながら、晶子は俺にゆっくり歩み寄り、隣に腰を下ろした。 彼女は一度だけ、俺の手の中にある風子の手紙を見遣ったが、それについて何か尋ねることはなく、 代わりに、空を見上げて、「修くんてさ…」と呟いた。 「風子のこと、好きだったでしょ?」 俺は顔をあげ、晶子を見た。彼女は相変わらず空を見つめていた。 「どうして?」と尋ねた俺の顔を見ないまま、彼女は続ける。 「修くんの彼女っていつも、風子にどこか似てるんだよね」 「…ホント、分かりやすいんだから」と言って、儚く笑った。 俺は、自分の手元を見つめた。 無惨にグシャグシャになった風子からの手紙。 それを見つめながら、俺は「…そうかもな」と、小さく呟いた。 そうして俺は、背広のポケットからライターを取り出して、その手紙に火を灯した。 火はゆっくりと燃え広がっていき、ギリギリのところで俺は手を離す。 真っ白だった手紙は完全に火が回り、真っ黒な炭になっていく。 俺達の間に、優しい風が吹き抜けた。 それと共に、 手紙から細い灰色の煙がユラユラと大空へ立ち上っていく…。 その様子をぼんやり眺めながら、 俺は心の中で呼び掛けた。 ―――風子、 君に伝えられなかったことがある。 本当は、ずっと、 君が好きだった。 初めて出会ってから、ずっと。 でも君の傍にはいつも、他の男がいて、 俺のことなんか、眼中にないって、最初から諦めてた。 燻ったこの想いを、君に打ち明けられなかったことを、 今、とても、後悔してる…。 「もう、苦しまなくて良いんだ…」 風に揺られても、真っ直ぐに上っていく煙を見つめ、 俺の想いが、この素晴らしい青空の向こうにいるだろう風子に届くよう、 心から、祈った。 【FIN】 . 前へ |次へ |
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