《MUMEI》 こんなに一時間が長く感じられたのは初めてだ。 後々、保護者から賛否両論あったが、生徒達に助けられた面もあり、大きな問題にもならず落ち着いた。 多少の叱責は他の先生から受けても後悔はしなかった。 俺達には必要な時間だったからだ。 それよりも律斗が一人で帰っていなかったことが、 お互いに仕事を終えて 二郎との、 「おかえり」 「ただいま」 の単純なやり取りが、 俺を幸福感で満たしていた。 「七生、おいで。」 ある日、寝室で一人で作業してると二郎に手招きされた。 ほかほか、温まる匂いがする。 「なにー?」 「蜂蜜貰ったの。生姜湯に混ぜてみたんだけど味見して?」 おたまで小皿に掬って渡してくれた。 「……おいし。」 「疲れとれそうでしょう。最近、七生センセイ根詰めて働いてるから。」 この間の授業を潰すことがあってから釘を刺されて、隙を作らないようにしていた。 自分だって忙しいくせに二郎は俺を見てくれている。 空っぽの小瓶の周りの黄金を指先で集める。 「……蜂蜜って唇にもいいんだってさ。」 睡眠時間削って台詞覚えて、目の下にくま付けながら生姜湯作るために蜂蜜なんか買ってくる……。 そんな彼の雪肌で境がくっきりとしている薄紅の唇に塗ってみた。 「……蜂蜜だけだとくどいみたい。」 頬を染め(もっと恥ずかしいことなんて沢山あっただろうに。)、艶のあるぷるぷるの唇が歪む。 「甘すぎるのも、またいいんだけどね。」 二郎の優しさはキスより甘いようだと、指先のくどさを嘗めて確かめた。 前へ |次へ |
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