《MUMEI》 「ようやく開き掛けているんだよ、基。楽園の扉が漸くこの女を受け入れようとしている」 「だから?」 「あともう少し。あともう少しで完璧に開く。あの娘さえ手に入れば――!」 言外にシャオの事を含ませる相手へ 本城は無意識に銃口を相手へと突き付けていた 過去を思い出せば思い出す程に 今これから起ころうとしている事に嫌悪ばかりを抱いてしまう 目の前で母親を殺されたあの瞬間 誰を、何を恨んでいいのか分からず唯苦しむしか出来なかった嘗て どうして同じ思いをまたしたいなどと思うだろう 「……あの子に手を出したら、あなた殺すよ」 「あの娘に情が湧いたとでも?」 「関係ないね」 「お前がそんな事を言う何て珍しいな。だが、もう遅い」 「どういう意味?」 「今頃はヴァレッタが私の部下を使いあの娘を捕らえている頃だ。直に、此処へ来る」 「……あの女やっぱり殺しておけばよかった」 男の声に聞く耳ももたず、本城はやはり無感情に呟く だがどれだけそれを悔やんでも仕方がない事で 今は現状を打破する事の方が優先だと、 脚を素早く蹴って回し、男から逃れる 相手との距離を取ると、素早く懐から銃を取って出した 「無駄だ、基。事は全て私の思うがままに進み始めている」 「なら、今此処でお前を殺す」 引き金に掛けていた指に徐々に力が入る 完璧に引いてしまう寸前 「基、駄目!」 聞いた様な声が鳴ったと思えば、背後から突然に抱きすくめられた そちらへと視線を巡らせて見れば 自身へとしがみ付いているシャオと、その様を呆れた様な顔で眺め見ていた畑中の姿が 「……取り敢えず、落着いとけ。基」 「僕はいつでも落ち着いてるよ」 畑中の窘める様な声に本城は相も変わらずの無表情で 畑中はつい溜息を洩らすと男へと向いて直り 「……テメェがこう出てくる事を予測しとけばよかった。そしたら態々基を別のファミリーに潜入させてまでフェアリーテイルを追わせる事もしなかったんだが」 「別に僕は気になんてしてないけど?」 「それでも、だ」 全ての責任は自分にある処が大きい、と表情を歪める畑中 銃口を男へと向けた 「こいつをあの時殺し損ねた、俺の責任なんだよ」 畑中が語る事を始めた(あの時)、それは10年前の過去 その時にも起こったフェアリーテイルを巡る騒動 『基、大丈夫よ。あなただけは、母さんが守って見せる。何も、私のフェアリーテイルは何も守れなかったけれど、あなただけは、母さんが守るから』 幼かった本城を腕に抱き、慈愛に満ちた笑みを浮かべる だがその母親はすぐに捕らえられ フェアリーテイル 扉の鍵としてその身を捕らわれる事になった 「こいつさえ、こいつさえ居なければ!」 誰も死ぬ事など無かったのに、と畑中は怒りに任せ更に銃口を男へと近く寄せていた 「そうは、させない」 引き金を引く寸前、本城の背後から聞こえたヴァレッタの声 突然のその声に、本城はさして驚く事もせずゆるり向いて直れば 「……動かないで。この子がどうなっても知らないわよ」 いつの間にかシャオへと銃を突き付けているその姿があった 「お父様から離れなさい、早く」 父親へと銃口を向ける畑中へとヴァレッタのソレが向けられる 誰一人として身動きが取れなくなる程の重苦しい空気、呼吸の音しか聞こえない程の静寂 だが直後に シャオが力なく膝を崩し座り込んでしまったことでそれは失せて 「……嫌ぁ!!」 そして唐突に喚く事を始める まるで狂人にでもなったかの様なその豹変振りに 本城を含め、その場に居た全ての人間を動揺させた 「嫌……。見せない、で。貴方が壊した(楽園)なんて、見たく、ない!」 喚くばかりのシャオの視線が見たのは扉、そこにいるヒト そのヒトにまるで怯えでもするかの様に 身体すら震わせ蹲ってしまうシャオを、本城は抱きしめてやる 「シャオ、僕が分かる?解るなら、こっち向いて」 頬へと手を添えてやりながら低く呟いてやれば シャオは呼吸を引き攣らせながら、だが喚く事を止めていた 頬に触れたままの本城の手に自身のソレを重ねそして縋る 「大丈夫、大丈夫だから、シャオ。僕の髪に触れて」 「も、とい……」 本城に促されるまま、シャオは本城の髪へと指先を触れさせた 前へ |次へ |
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