《MUMEI》

歩雪は今宵の声に気がつくと、歩雪は今宵の方へ目線を向ける。

「おはよ」

「な、何で・・・・・・?」

軽く笑みを浮かべながら挨拶をする歩雪に、今宵は動揺した。

何で、ここに?

昨日あんな態度とったのに・・・・・・。

「ん?こーを待ってた」

口元を緩めたまま答える歩雪に、今宵はどうしていいか分からなかった。

そんな・・・・・・そんなに優しくしないでよ。

どうすればいいか分からなくなっちゃうよ。

今宵は表情を硬くして俯き、足を踏み出す。

「ごめんね」

今宵が歩雪の前を通り過ぎようとすると、足が止まった。

歩雪が今宵の腕を掴んだからだ。

「なんか昨日もこんなことあったな」

「・・・・・・離して」

この言葉に歩雪は力を緩めるどころか、更にしっかりと力を込める。

どうして・・・・・・?

「何で・・・・・・逃げるの?」

「に、逃げてなんか無いよ」

「じゃあオレの方見て」

今宵の腕がグイッと歩雪のほうに引かれた。

歩雪の顔がすぐ近くにある。

「何で離れようとするの?オレ何かした?」

寂しげな歩雪の顔が眼鏡越しに今宵の目に映る。

何でこんな顔をするの・・・・・・?

「違う。私が悪いの。全部、私が・・・・・・」

「何を隠してるの?こー」

どうしよう。

この目で見つめられたら逸らせないよ・・・・・・。

「何も、ない」

今宵はパッと俯くと、細い声で答えた。

言えるわけない。

どんなに見つめられたって。

どんなに問い詰められたって。

これは私だけが決めたことだから。

「オレはこーが言うまで諦めないから」

歩雪は今宵を真っ直ぐに見つめると、手の力を緩めた。

歩雪くん・・・・・・。

「先、行ってるから。遅れないようにしな」

歩雪は今宵から目を逸らすと、足を踏み出した。

こんなこと歩雪くんに言えるはずが無い。

自分の胸に閉まっておくしかないよね。

今宵は歩雪の後ろ姿が見えなくなると、ゆっくりと足を踏み出した。

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