《MUMEI》

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学校に着くと『LABO』(ラボ)と呼ばれる研究室へ向かう。

研究室と言っても、そんな大層なものではなく、四畳半くらいの狭い部屋の中に、スチール製のデスクが数個と、それを取り囲むように壁一面に設えられた書類棚があるような適当なもの。

部屋中の至るところ…例えば机やキャビネットの上、さらには片隅に置かれた丸椅子の上にまで、参考書やら、専門書やらで埋め尽くされているので、ちょっと歩くだけでも苦労する程だ。

そんなラボの重い金属製の引き戸を開けると、中にフランス語講師が数人と、わたしと同じアシスタントが一人、すでに出勤していた。

簡単な挨拶を交わしながら、わたしは自分のデスクにつく。たくさんの書類が散乱しているその机上を適当に片付けて、持ってきたトートバッグを置いた。

そこへ講師がわたしのところへやって来て、レポートの束を手渡す。昨日、生徒が提出したものだ。トータルで軽く200枚は越えるだろう。

「昼までに添削しておいて」

淡々と指示をしたあと、講師はラボから出ていった。

わたしは眼鏡の位置を直し、そのレポートを眺めた。

びっしりと書き込まれた、アルファベットの羅列。流し読みしてみると、その内容は自分の将来の夢を書いているようだった。

そう言えば、昨日の授業は単純未来と近接未来の文法を教えていたな…とひとりごちながら、わたしはバックの中から筆箱と辞書を取り出して、添削を始めた。



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