《MUMEI》 . お昼前、ラボでのレポートの添削を一時中断し、わたしは他のアシスタントと共に、生徒がいる教室へ入った。 教鞭を振るっていた講師は、生徒に文章を書くように言ったあと、わたしたちと入れ替わるように教室から出ていった。 恐らくはラボで、次の授業の予習と、他のクラスのレポート添削に追われているのだ。 この学校に雇われている講師の数はけして多くない。だから、一人の講師がいくつかの講義を掛け持ちしているのが常だった。 そんな彼らの代わりに、わたしたち、アシスタントが生徒たちの課題をチェックするのだ。 「…ここ、スペル違う。主語が女性形だよ」 生徒たちが仏文を作成している中、一人一人の様子を見ながら、誤りを見つけたわたしは、密やかに囁いた。 指摘された生徒は慌てて消ゴムで間違った箇所を消し、単語を書き直す。それを確認してから、わたしはまた別の生徒の机を回った。 静まり返ったクラスの中には、生徒たちがペンを走らせる音と、わたしたちアシスタントが巡回する足音だけが響いている。 わたしは教室の中を歩きながら、ゆっくり視線を流す。 教室には30名程の生徒がいる。 年齢層は幅広く、10代くらいの人から、60代くらいの人までの男女が在籍していた。 この学校は完全選択制で、自分のライフスタイルに合わせてフランス語が勉強出来るシステムになっている。 会社帰りのサラリーマン、リタイアした人、仏語習得に励む大学生、さらには時間をもて余しているマダムなど、本当に様々な人たちが、ここへ通っているのだ。 それは、わたしが生徒だった頃から変わっていない。 . 前へ |次へ |
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