《MUMEI》 風のような出逢い. 見回りを終えて教室を出た頃には、もうお昼の12時を回っていた。 今朝方、講師から預かったレポートの添削が、まだ終わっていない。『昼までに』と、言われていたのに。 ラボへ向かう途中、他のアシスタントから、近くのコンビニへお昼ご飯を買いに行こうと誘われた。 校内にも食堂があるのだが、フランスでも有名なサンドイッチ店らしく、値段が驚くほど高い。 薄給のわたしたちは、安いコンビニ弁当で済ませることが多かった。 いつもならわたしも、皆と一緒にコンビニへ行くのだが、今日は割当てられた仕事が終わっていないので、食堂で済ませると仲間の誘いを断った。 皆はわたしをラボに残し、次々に席を立って消えた。 楽しそうに出掛けていく仲間たちを見送ってから、わたしも財布を手に取って、誰もいなくなったラボから出ていった。 ****** 食堂はラボのすぐ隣にある。 サンドイッチ店のカウンターと、食事が出来るカフェテラスがいっしょくたになっている、開放的なスペース。 お昼時なので、サンドイッチ店はかなりの賑わいを見せていた。 列に並び、たくさんのメニューに目を通す。やっぱり高い。しかも、注文してからサンドイッチを作るシステムなので、時間もかかる。 考えあぐねた結果、わたしはレジ脇に並べられたラスクを買った。3枚で500円だった。何だか納得いかないが、仕方ない。仕事を終わらせることが出来なかったわたしが悪いのだ。 サンドイッチ店から離れて、わたしはカフェテラスにある自動販売機に向かった。 歩きながら、何を買おうか悩んでいるとき、 不意に、目を奪われた。 自動販売機の近くに、小さな書店がある。そこは、学校の教材を取り扱っていて、わたしもよく利用していた。 その、ディスプレイ棚に並んでいる、フランス語で書かれた絵本。 あの有名な、『星の王子様』だ。 . 前へ |次へ |
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