《MUMEI》

「君クビね」

 ある朝、いつものように出勤して来た僕に、バイト先の雇われ店長は事務的にそう言った。

「どうしてですか?」

 さして広くもない、通路と言っても納得出来そうな、狭くて細長い事務所兼更衣室に店長と僕二人。

 壁掛け時計の時を刻む音がひどく大きく聞こえる中、内心またかと心ざわめくのを表に出さず、出来るだけ平静を装って聞き返した。

 その言葉に、普段から感情をあまり表に出さない店長の顔が、僅かだったが苦虫を噛み潰したように歪むのが解った。汚物を吐き出すように口を開く。

「君と一緒にシフトに入る子達が言うんだよ。『何でか解らないけど、気持ち悪いから一緒に仕事したくない』って…………」

 やっぱりそうか…………。

 僕はただ一言「解りました」とだけ絞り出すと、軽く一礼して部屋を出る。

 最後に目の端に映った店長の顔は、厄介な案件が無事終わったという安堵の表情だった。

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