《MUMEI》

.

 そうだ、封筒…………。


 小脇に置いた鞄の中から今朝出掛けにポストに入ってた茶封筒を取り出した。裏にはこの間面接を受けた会社の名前がゴム印で捺されている。


 ビリリッ


 封を破いて中の紙片を抜き取り、三つ折りにされていたそれを開く。時節挨拶から始まるそれを読み進めると、程なくして『不採用』の文字に突き当たった。

「…………!」

 クシャクシャと不採用通知書を丸めて、半分残したハンバーガーと気の抜けたコーラと一緒に、ハンバーガー店のロゴがプリントされた紙袋に突っ込んだ。

「はぁぁぁ〜〜〜〜〜ぁぁぁ…………」

 三度目の深い深い溜め息。バイトのクビに就活先の会社の不採用通知のダブルアタック。この世の不幸が全部のし掛かってきたような気分になる。

 …………何もかもが嫌になってきた。世の中全てが自分の敵に見えるのは何故だろう。

「ちょっといいかい?」

 と、昼前の暖かな日差しを受けて、一人ベンチに座って日本海溝の底の底まで沈み込んでいた僕に誰かが声を掛けてきた。

 低音の渋い声のした方へ顔を向けると、一人の男性がいつの間にか僕の隣に腰掛けていた。

 年齢はおそらく50歳前後。くたびれた茶のスーツがしっくりと身体に馴染んでいる。黒髪と白髪の比率が6対4位の頭を小綺麗に揃え、深いシワを刻み込んだ顔に柔和な表情を浮かべ僕をじっと見ていた。

「何ですか?」

 気持ちの切り替えが上手く出来なくて腐ったままの拗ねた口調で返事を返してしまう。

 そんな僕の態度にも顔色ひとつ変える事なく、目の前の初老の男性は柔和な表情を崩さず口を開いた。

「君、ウチで働く気はないか?」

「はい?」

 突然の降って湧いたようなその申し出に、僕の頭は軽く思考停止してしまった。

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