《MUMEI》

 純白の雪は街に舞い降り、全てを優しく包み込む。

 神を信ずる者達の依り所、白亜のサクラ大聖堂を。

 郊外に建てられた死者の眠るエクセシオール墓地を。

 そして旧中心街――今ではすっかり寂れ果ててしまったスラム街に倒れる一人の男を。

 ライナス・スターリング。

 その男は、今まさに死に直面していた。

 虚ろな霞がかった瞳に、呼吸は浅く弱々しく乱れ、そこここから流れ出す血は、彼が教会に仕える戦教士である事の証である青の聖服と、冷たく凍りついた石畳の地面を赤く染め上げ、容赦なく彼の命の灯を吹き消そうとしていた。

 成す統べ無く、ヒタリ、ヒタリと、一歩ずつ忍び寄る死神に身を任せるしかない彼の視界の片隅を、何者かが遮り、暗い暗い陰を落とした。

 うすぼんやりと明かりを放つ街灯を背にして立つそれを、最初ライナスは本当に死神が目の前に現れ、魂を刈り取りに来たのかと思い観念した。

 その影の身なりが頭から爪先まで、乾いた血のような赤黒い色の衣服を纏っていたからだ。

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