《MUMEI》
大丈夫です
「それどうかしたんですか?」
「わかる?わかるよな、は〜…」
わかるとかわからない以前に凄い場所の傷ですよ、伊藤さん…。
伊藤さんは鏡の前に座り、じっと見つめた後、はあとため息をつき、ぐったりと俯いた。
何故あんな傷…、
髭剃りに失敗とか?
…うーん俺からは聞きづらいから裕斗にメールしてみようかな。
ガチャッ!
「おはようございます!」
「「「「おはようございますッ!」」」」
俺も反射的に立ち上がり入ってきた人物に頭を下げた。
だって!めちゃめちゃ憧れてる俳優、佐伯陸さんが楽屋に来るなんて!
伊藤さんには悪いけど、やっぱ佐伯さんには伊藤さんにはない、カリスマ的な一流のオーラがある!
それに何と言ってもカッコイイし、演技も好きだし、俺は佐伯さんの出てるドラマ小さい時から欠かさず見てた。
「はじめましてだよね?えっと…加藤惇君?」
「は、はい!はじめましてッ!加藤惇です!!」
俺は改めて頭を下げた。
ああ、嬉しい…
俺の事佐伯さん知ってるなんて…
「秀幸は不細工だろ?気持ち悪い時は鼻っつらでも引っ掻いてやってくれな?
あ、あと煩い時は鼻っつらに熱湯かけると大人しくなるから、あ。ムカついた時は秀幸の鼻っつらにパンチするとスッキリするから」
「あ〜?何だってテメエ!何しにきやがった!」
伊藤さんはメイクの手を休め振り返った。
「「「………」」」
佐伯さんは立ち上がれない程暫くの間大爆笑していた。
俺もつられて、でも控えめに笑ってしまった。
そして、他の団員も我慢を爆発させ大爆笑。
伊藤さんは最初は怒っていたが途中で一緒に笑いだした。
伊藤さんに、実は鼻毛切りに失敗したなんて暴露されて、俺は本気で爆笑してしまった。
でも、俺が笑ってる最中の時、伊藤さんは俺だけに聞こえる様に、実は裕斗にやられたんだと言ってきた。
みんなが爆笑している中、俺一人ゆっくりと笑いを引っ込め、激しい脱力感に襲われた。
「裕斗…おまえって奴は……」
相変わらずなんだな…おまえ…。
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