《MUMEI》
初めての場所
「…カラオケボックス?」




梨央は店の前にある看板を見て呟いた。


来たことはないけど、何をするところかくらいは分かる。たしか、歌を皆で好きなだけ歌うところだ。

でも、何で?


僕がボーッと建物を見上げていると、悠一に横から声を掛けられた。




「カラオケ、来たことないんじゃないかなーって思ってさ」

「うん、ない。ないけど、何でカラオケに来たの?」

「あ?思い出作りの記念すべき第一回目に決まってんだろーが。午後だけじゃ、遊園地とかは行けねぇからな」

「あ、そういうこと」

「そういうこと!ほら、早く入るぞ」




悠一に手を引かれ、僕は初めてカラオケボックスに入った。取り敢えず2時間ということで部屋に入り、悠一はマイクを一本渡してくる。

僕のためにしてくれてることではあるけど、ここで問題点が一つ。





僕はほとんど歌を知らない




僕は、一曲目を選んでいる悠一にそのことを告げた。




「はぁ!?歌知らなかったら、カラオケ来た意味ねぇじゃん!」

「うん、そうだね。でもさ、悠一どこ行くか教えてくんなかったじゃん」

「そうだけど、まさか歌知らないなんて思わねぇだろ!」




悠一はそう言いながらも、頭をガシガシと掻きながら、付属の機械で曲を選んでいる。そして「…あ、これなら知ってんじゃん?」と選曲した歌を入れた。


流れ出したのは、僕でも聞いたことのある有名な歌。



「あ、これ聞いたことある」と言えば、「じゃあ、歌うぞ」と悠一に促された。



聞いたことがあるという程度の歌を歌うのは困難だったが、なんとか悠一に合わせて歌ってみる。



三分程度の短い曲を歌い終え、僕が一息ついていると、隣で悠一が自分をじっと見ているのに気が付いた。




「悠一?どうしたんだ?」

「あ、いや…、なんでもない」

「何だよ?僕のこと見てたじゃん」

「んー…、意外と歌上手いなぁって思って…」




予想外の悠一の一言に、僕は動揺して「う、上手くなんかねぇよ」と否定した。



ったく、どんだけしっかり聞いてんだよ!!っていうか、悠一の方が上手かったし…



それでも「いや、歌知らないわりには上手かったって」という悠一に対して、「もういいから、早く次の曲入れろよ」と半ば強引に促した。

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