《MUMEI》 怒鳴りながら畑中は扉を殴りつける だがそれ以上の会話を本城は交わさず、ゆるり歩いて扉の前へ まるで糸の切られた人形の様に其処に倒れ伏す母親 見開かれたままになっていたその眼を本城は閉じてやりながら 「あなたは、本当に馬鹿だね」 感情の籠らない声で呟いた 母親の亡骸を眺めながら思い出してしまうのは、フェアリーテイルを巡る過去のいざこざ これを手にしたものは楽園を手にする事が出来るとあってか、母親は日々狙われない日はなかった 毎日のように何者かに追われ そんな日々に嫌気を感じ始めた時のことだった 本城達に、救いの手が差し伸べられたのは 『……私の処へ、来るといい。何も心配はいらない』 優しげな声でその手を差し出したのは、ヴァレッタの父親 心身共に疲れ果てていた本城の母親は疑う事もなくその手を取っていた 後々に、自身が利用されるためだけに拾われたと気付かずに 「……本当、馬鹿だよ」 「本当。大馬鹿だわ、その女」 一人言に返ってきた声 そちらへと向いて直れば、そこにはヴァレッタの姿が 「あなた、居たんだ」 「居たわよ。ずっとね」 「気付かなかった。大体、大好きなお父様が死んで、此処に居る理由なんてあなたにはないと思うけど」 「そう、ね。でも――」 言葉も途中に ヴァレッタは覚束ない足取りで扉の方へと歩み寄っていく 何をするつもりかと本城が訝しめば 僅かに開きかかっているその扉を無理やりにこじ開けようとしていた 「開いて、開きなさい!私は(フェアリーテイル)なの、あなたの鍵よ!」 狂ったように喚きながら扉を殴り始めるヴァレッタ 何かを懇願するかの様に、その様はひどく必至だ 「……私を、認めて。フェアリーテイルだったら、私はお父様に愛して貰えたのに……」 父親の亡骸を横眼で見やりながら、涙すらすぐに流し始める 「……私はずっと必要ないと言われ続けてきたの。フェアリーテイルを持たない、役立たずだ、と。だから……!」 「もう、そんな必要は無いよ、ヴァレッタ」 ヴァレッタの言葉も最中に 本城は溜息混じりに彼女を征す 「……あなたになんか、私の気持ちは解らない。解る筈ないわ!」 聞く事さえも拒み、また扉をこじ開け始める 徐々にだが開いて行く扉。人一人が漸く通れるまでに開けば 「……私はね、基。貴方の母親が憎かったの。フェアリーテイルというだけで父様に囲われ、愛されていたあの女が」 喚く声を上げながら、唐突に本城の首を女性のそれとは思えない程の力で掴み上げていた 「清々、したわ。だって、本当に死んだんですもの。いい気味」 嘲笑う声を高々と上げ、本城の首を掴んだまま ヴァレッタは開いた扉の奥へと本城の身体を押しやっていた 「あなたも永遠そこで彷徨うといいわ。じゃぁね」 満面の笑みを浮かべ、ヴァレッタはそのまま扉を閉めて行く 閉じてしまう寸前その僅かな隙間を借り、、本城は銃を構えた 鳴り響く発泡音 本城の売ったソレがヴァレッタを捕え、その身体が完璧に倒れるのが見え そして扉は完璧に閉ざされてしまう 「……ここが、楽園か」 目を覆いたくなってしまう程の黒い景色 何もんなく、何の音もせず そこにあったのは本城の呼吸の息遣いと、心臓の音だけだった 「……寂しい場所だね。何も、ない」 一歩踏み出せば、歩いている筈の其処は随分と不安定で まるで何かに脚を取られて言う量な錯覚に陥る 「まぁ、僕には似合いの場所なのかもしれない」 生きる事に対してさして執着なく、ただ漠然と生きている自分には似合いの場所だ、と 一人言を呟きながら自身へと嘲笑を浮かべれば 何かに脚を取られる感覚は確かなものへと変わり、本城はその場へと片膝を着いてしまう 一体何がそこにあるのか、見る事をすれば 本城の脚が実態のない黒に段々と覆われて行った 「……まぁ、此処にずっと居る位なら、死んだ方がマシか」 脚の感覚が失われ、立つ事すら叶わなくなりながら 本城は徐に手を懐へと忍ばせ何かを取って出していた 前へ |次へ |
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