《MUMEI》

 玄関ホールは思ったより広く、出入り口正面には受け付け嬢が二人。

 年は僕より少し上くらいだろうか。黒髪の長い美人と、ブラウンがかった外ハネの短い髪の美人がカウンターの向こうに座っている。

 僕は人当たりの良さそうな第一印象を受けた髪の長い美人の前へ。

「いらっしゃいませ。どのような御用件でしょうか?」

 ニッコリと微笑む美女に思わずクラッと来る。『橘 明日香』と胸のネームプレートには印刷されていた。

「あ、あの……」

「はい?」

 緊張して声が上擦ってしまう。それでも目の前の明日香さんは、微笑みを浮かべ待っていてくれる。

「『霊障清掃局』の櫻井
 肇さんはいらっしゃいますでしょうか?」


 ・・・・・・・・


「少々お待ち下さい」

 目の前の受話器を取ると、プッシュホンを押してどこかに連絡を入れる。

「……はい。はい……失礼します」

 そして、いったん受話器を置くと再び手に取って別の番号を押す。

「…………はい、解りました。そうお伝えします。

 お待たせいたしました。櫻井は直ぐに来るとの事ですので、そちらでおくつろぎになってお待ち下さい」

 にっこりと微笑む明日香さんにそう言われ、僕は外がよく見える一人掛けの皮張りソファーに腰掛ける。

 ………………最初のあの間はいったい何だったんだろう…………?

 嫌な予感が頭をよぎり、不安が坂を転がり始める。

 やっぱり『霊障清掃局』なんて国土交通省には無いんだろうか?

 そうすると僕は、在りもしない局の、居もしない人間を呼び出そうとしてる怪しいヤツ?

 もしそうなら今から来るのは、昨日会った人の良さそうなオジサンじゃなくて、屈強なガードマン!?

 そして現れたガードマンに両脇を抱えられ、外へ放り出されて道行く人の笑い者に……。

 ひょっとしたら最悪、そのまま取調べ室や留置所へ直行なんて事も……!?

 どんどんと悪い考えばかりが頭を過る。

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