《MUMEI》 4「基、ここ開けて。基!」 本城が閉ざしてしまったその部屋の外 彼によって追われた筈のシャオの姿は未だその場に留まっていた 傍らの畑中がこの場から離れる様促しても、シャオは頑なに首を横へと振るばかりで 一向に動く事をしそうにないシャオへ、程々困ったように溜息を吐いた その直後 突然に建物全体が揺れ、畑中は部屋の奥に爆音を聞く すぐに爆吹き付けてくる風と共に、閉じられていた扉が開かれた 「基!!」 「駄目よ!シャオちゃん!」 中へと入っていこうとするシャオの腕を取り引き留める畑中 だがその手を振り払い、シャオは中へと入っていく 室内へと飛び込む様にして入れば しかし其処には多量の血を流し倒れ伏すヴァレッタの亡骸と、内側からの爆発により歪んでしまった扉しかなく 本城の姿は、やはりない 「も、とい。何所……?」 見えないその姿に不安は更にシャオを最悪な思考へと誘っていく もしかしたら死んでしまったのかもしれない、と 本城に汚され、血液が乾いて固まってしまった髪をまるで彼との繋がりだといわんばかりに握りしめながら シャオは扉の前へ 「……この奥が、楽園?此処に、基が、居る?」 手の平をソレへと触れさせれば、その瞬間 シャオの脳裏に莫大な量の映像が流れ込んでくる ソレは、記憶 その扉の奥にあるものの成り立ち、歩んでいた過程 争い、富の独占、寵愛。そして差別に偏見、更には死 フェアリーテイルを取り囲む様々な感情 「……ど、して?私達は、普通じゃないの?」 まるで人ではない様な扱われ方に シャオは負の感情に苛まれ、だがそれでも扉へと手を掛けた 「普通でなくていい。ヒトでなくてもいい。いいから、今は――」 本城に会いたい、とその一心で戸を引く しかし扉は閉ざされたまま開く事はない 「開いて。開いて……!!」 喚きながら、その扉を何度となく叩きつけるシャオ だがやはり開く気配のないソレに 叩くソレは更に強く扉を叩く 「……あの場所に、あんな寂しい場所に基を一人にしたくない」 あの時見えた(楽園)は何もかもが壊れた寂しいばかりの場所だった 一瞬見せられただけで孤独感に苛まれ、誰かに縋らずには居られなくなる それほどまでに寂しいその場所に 今本城は一人でいるのだ、とシャオは自身の髪を更に握りしめていた 腰まであるその長いソレが、今は酷く煩わしく感じられる 「……いら、ない。役に立たないなら、こんな髪、要らない!」 癇癪をまるで起こしたかの様にシャオは髪を後ろで一つに束ね そして脚元に転がっていた銃を取って上げると、その髪をソレで焼き切ってしまう 鳴り響く銃声。髪が焦げる独特な臭い 切り離された髪はシャオの手の平から滑り降り散らばっていく 堕ちて行く最中 「……羽根?」 髪が次々にその姿を羽根の様なソレへと変えていく ひらりひらり、何度も何度も ソレはどうしてか扉の前へと積もっていき、だがすぐに消えてしまっていた 「基……」 どうしても開く気配を見せない扉にシャオは悲観し膝を崩し 等々泣きだしてしまうまでそう時間は掛らなかった 「……開いて。お願い」 辺り一面を火の熱に覆われながら一人 だが熱よりも先に感じるのは孤独 握りしめたままの取っ手も火傷してしまう程に熱を帯び、だがシャオは構わずそれを引く 「……シャオ。そこに、居るの?」 暫くそのままで居ると、不意に本城の声が扉越しに聞こえてきた その声にシャオは弾かれた様に顔を上げると扉へと縋り付く 「……僕は逃げろって言ったと思うけど?」 呼吸の薄い声で、それでもシャオを窘める本城 シャオは見えないと解っていながらも懸命に首を横へと振りながら 「……基の、傍がいい。シャオは、基と一緒がいい……」 始めて誰かの存在を切に求めながら シャオはまた扉へと手を掛けた 熱を帯びた取っ手に手の平を焼かれながらも、開こうとそれを引けば 「基!」 それまで全く動く事のなかった扉が シャオのか細い腕が少し引いただけで容易に開いていた 座り込んだまま居た本城をすぐに見つけ、その身体を抱きしめる 「……基。基!」 「何?」 何度も名前ばかりを呼ぶシャオへ 前へ |次へ |
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