《MUMEI》
我に帰ると
「じゃあなっ」
映画館の外で
秀一に右手を振り返す俺がいた
その《じゃあな》もいつもと変わらなくて。
…さっきのことは、
幻?
妄想か?
一人で苦笑いして左手に握っていたものを見る
「………あ」
紛れもなく映画館の中で買ったことを示す、カップ。
捨てるの忘れたのか、と何気なくストローを吸った
「……不味ぃ…」
その薄いコーヒーの味は
確かに知っているもので
「…っ……」
俺は一人で顔が熱くなるのを感じながら
自販機の横の缶捨てに
カップをねじ込んだ
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