《MUMEI》

本城は僅かに困った様な笑みを浮かべながら聞き返してやるばかりだ
暫く、そんな他愛のないやり取りが続き
辺りが柔らかな雰囲気に包まれた
次の瞬間
突然、その部屋が音を立てて崩れ始めていた
まるでコーヒーに入れた角砂糖が解けていくように脆く弱く
所詮其処は造られた偽りの場所でしかないのだとその様を本城は唯眺め見る
そして全てが壊れ、後に残ったモノは以前、シャオと訪れた事のある遊園地の様な場所だった
「……これが、君にとっての楽園?」
見る景色は同じ
唯一つ違うのは、そこにある有が全て動いているという事
見てみる様シャオを促してやれば小さく頷いていた
「……初めて見た、楽しいものだったから。だから……」
「悪くないね。こういう、楽園も」
言いながら本城は何とか立ち上がり、シャオの手を取る
「基?」
どうしたのかとシャオが首を傾げれば
「……少し遊んで、それから此処を壊して帰ろうか」
「壊、すの?どうして?」
更に首を傾げながら問うてきた
だが本城は何を返してやるでもなく、唯穏やかに笑むばかりで
所詮偽りばかりで出来ているこの場所
母親の言いつけを律儀に守る訳ではないが
そんな場所に安穏と居座るつもりなど本城にはなかった
「……僕に、付いておいで。此処にいるよりもっと面白い事、教えてあげるから」
耳元で呟いてやる強制の言葉
傲慢に聞こえるはずのソレが、今はひどく優しい音を持つ
「……基」
「この僕に此処まで言わせたんだから。ほら、さっさと手を取りなよ」
差しだした手に、その手が重ねられたのはすぐで
目の前に、シャオの満面の笑みが向けられた
「……シャオを、此処から攫って。基が居るところがシャオにとって」
楽園なのだから、と語尾が小声で聞こえる
重ねられた手が強く握り返され、そして
まるでその言葉に礼を返す様に本城の口付けがシャオの額に触れた
フェアリーテイルが望んだ楽園
短くなってしまったシャオの髪を何度も指先で梳いてやりながら
優しく穏やかなソレを見る事が出来た事に本城は安堵し
そしてシャオへ向け、穏やかな笑みを浮かべて見せたのだった……

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