《MUMEI》 2 キョゼツ翌日は突然に酷い雨に見舞われた 定休日として店を一日サボり、買い物へと出かけていた畑中は いきなりなソレに傘など持っておらず 自宅へと帰り付いた頃には全身がずぶ濡れになってしまっていた 「……最近、良く降るな」 水分を大量に含んでしまった衣服を手で絞りながら 取り敢えず風呂にでも入ろうと踵を返した その直後 電話が高々と鳴った 未だずぶ濡れたまま受話器をとってみれば 『小林 和泉君のお宅ですか?』 聞き覚えのない声が其処から聞こえてきた 突然のソレに 相手には見えないと解っていながらも畑中は怪訝な表情をしてみせる 一体何をしでかしたのかと考え込んでいた沈黙を肯定だと相手は思ったのか 『私、近所の派出所の者ですが、その小林君が突然道端で倒れてしまって』 電話をかけたその事情を話し始める 「倒れた?あいつが?」 どうでもいい筈のことだというのに 何故か聞き返していた畑中 その言葉で電話先の相手は更に詳しく状況を説明する事を始めてしまう 『はい。その時丁度私が通り掛かりまして。今、病院に居るんです』 「そう、ですか。それで?何故、ウチに電話を?」 何となく気に掛ったソレを問うて見れば 『連絡先を聞きましたらこの番号を教えて貰いましたので』 意外な答えが返る あれ程までに畑中を拒絶している筈が何故に、と訝しみながらも 電話を受けてしまった以上放っておく事など出来ない、と変な所で律義さを発揮する畑中 一応迎えに行く旨を伝え、取り敢えずは受話器を置いていた 「あの、クソガキ……」 何故に自身が動かなければならないのか 何となく釈然としないものを畑中は感じながら それでも迎えにと家を出る 「……迷惑かけんな。この居候が」 連絡を戴き、迎えに行った其処は近所にある掛り付けの診療所で そこのベッドにて蹲っている小林の胸座を掴み無理やりに身を起してやれば 身じろぎ一つで小林はゆるり眼を開く 畑中の姿を見、だが未だ夢現なのか 普段の様な反応はなく、 まるで求めるかの様に畑中へと手を伸ばす事をしていた 「……は、嫌だ」 「は?」 「一人は、嫌だ。……頼むから!」 寝言を呟きながら畑中の身体を抱き、涙すら流しながらうわ言のように呟く この少年をこれ程までに追い詰めてしまった責任は少なからず自分達にもある、と そんな思いが、不意に胸の内を過った 「……今だけ、縋らせてやる」 ふわりその身を抱き起こしてやり膝の上へ 暫くそうした後、小林が漸く落着きを取り戻し 畑中の腕の中で穏やかな寝息を立て始めていた 常日頃小林自身を覆っている(虚勢)という皮も今はなく 無防備にみせる寝顔はひどく幼く、そして可愛らしいそれだ 「……素直に、求めてみろ。そしたら少し位、愛してやるから」 額に掛る柔らかな髪を指先で梳いてやりながら 大凡自分らしくない言の葉を畑中ははく その言葉を理解したのかしていないのか それでも小林は畑中へと縋り付く事をしていた どうしても離そうとはしない小林に その様を見ていた医者は微かに笑みを浮かべながら 「連れて帰って上げてください。どうやら彼は貴方をとても慕っているようですから」 「だが俺は……」 「畑中さん。目は、逸らさない方がいいと思いますよ。何事からも」 「どういう意味だ?」 向けられる言葉の意味が分からず、つい怪訝な表情をして見せれば だが相手はそれ以上を話す事はせず 小林を連れさっさと帰る様畑中へと言って向けた 「彼に今必要なのは(自宅)での療養です。畑中さん、お願いしますね」 笑顔をおまけに、結局は小林と共に其処を追いやられてしまった畑中 諦めたように溜息をつきながら自宅へ 「何でこんな面倒を……」 つい愚痴りながら小林を取り敢えずベッドへ 寝かせやればその途端、畑中のシャツの袷を小林は掴んでいた 「離せ、クソガキ」 解いてやろうと手に触れてやれば シャツからは離れたが今度は腕を掴まれる 益々動けなくなってしまった畑中。どうにかして引き離そうとした 次の瞬間 「……傍に、居て」 更に縋り付いてきたその腕は微かに震えていて 誰かを求めてしまう程の孤独 何かを失ってしまうかもしれない恐怖 そのどちらもが今の小林を支配する 前へ |次へ |
作品目次へ 感想掲示板へ 携帯小説検索(ランキング)へ 栞の一覧へ この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです! 新規作家登録する 無銘文庫 |