《MUMEI》

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わたしの言葉を聞いて、彼は少し驚いたように、『あっ!』と声をあげた。


『さっきはどうも…突然、失礼しました』


詫びる声が、どこか弾んでいるように感じた。

優しい空気に、一気に緊張もほどける。

わたしが、いいえ…と微かに笑うと、彼も同じように笑った。

『急に声をかけてしまって…驚かれたでしょう?』

「ええ、少し」

『本当にすみません。でも、あの時は俺も必死で…ああする以外、他の方法が思い付かなくて』

そこまで言って、彼は黙り込む。それから、『こんなこと、いきなり言っても信じてもらえないかもしれないけど…』と、少し強張った抑揚で、続けた。


『カフェで見かけたあなたに、一目惚れしてしまったんです』


続けられた言葉に、

思わず携帯を落としそうになる。


…一目惚れ。


わたしに?



「冗談はやめてください」


わたしは乾いた笑い声をあげながら、咄嗟に答えた。それ以外、言葉が出てこなかった。

わたしの返事に、彼は真剣な声で『冗談でこんなこと言いません』とはきはき答えた。半ばムキになっているようだった。

『自分でも、こんなことは初めてで…上手く言えないんですけど、あの時…カフェであなたを見かけた時、今、声をかけなければ、絶対後悔するって…そう思ったら、あなたに名刺を渡していました』

わたしは、返す言葉を見つけられなかった。彼の台詞に嘘はない。紡ぎ出される言葉から、真摯な気持ちが滲み出ている。そう感じた。

彼の、情熱的で真っ直ぐな想いに、ただただ、圧倒されていた。



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