《MUMEI》

.

「あああああああああああああっっ!!」


 絶叫と共に目が覚める。

「はぁっ、はぁっ、はぁっ…………」

 目の写るのは見知らぬ天井。痛みに疼く霞がかった頭。

「……夢、か」

 息も荒く、心臓を早鐘の如く鳴り響かせ、全身から滝のように汗を流すライナスは、緊張に強張らせた身体を弛緩させたった今、目にした光景が現実でなかった事に、思わず安堵の溜め息を漏らす。そして少しばかりの余裕が出来た思考に、むくりと疑問符が頭をもたげた。

「何処だ?此処は……」

「ようやく目が覚めたようだな」

「――っっ!?」

 不意に耳に飛び込んで来た女の声に再び身体を強張らせ、鈍く疼く頭の痛みを取り敢えず意識の外へと追い出す。直ぐ様ライナスは寝ていた安物のベッドをギシリと鳴らすと、半身を起こして身構えると目を凝らし、闇を薄く延ばしたような薄暗い室内から声の主を探し出す。

 声の主はすぐに見つかる。彼女はライナスとは対角線上に位置する部屋の隅に置かれた、ロッキングチェアに腰掛けていた。

 肩に僅かに掛かる所で揃えた金糸の髪。金と銀の瞳を眼鏡の奥に隠す、目鼻立ちのすらりとした、雪のような冷たい印象を与えるその美女は、透き通るような白い肌の華奢に見える身体を、薄紅色のスーツで包み隠している。

 その、丈の短いスリットの入ったスカートからスラリと伸びる長い足を絡めるように組み、手にした目の細かいやすりで爪の手入れに勤しんでいた。

「お前は誰だ?」

 ライナスは女を用心深くじっと睨み据えたまま言葉みじかに尋ねる。

「大声を張り上げて目を覚ましてみたり、初対面の相手に無礼な口を聞いてみたり。寝覚めは最高にゴキゲンみたいだな?ライナス・スターリング」

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