《MUMEI》

「なっ……どうして俺の名をっ!?」

「眠っている間に記憶を覗かせて貰った」

「記憶をっ!?」

 不遜な物言いで平然と言い放つ女の一言に、驚いた表情でライナスはおうむ返しに問い返す。

「まぁ、記憶を覗いたと言っても、欠損が酷過ぎて、名前程度しか解らなかったがな」

「は……はっ!何を言い出すのかと思えば。人の記憶なんてモノがそうそう覗ける訳がないだろう。

 大方持ち物か何かから俺の名前を知っただけじゃないのか?」

「そう思うならそれでも構わんさ。だが、私の言った事が正しいかどうかは直ぐに解るはずだ」

 女の少しも揺らぐ事の無い自信を疑いつつもライナスは記憶の糸を手繰り寄せる。確かに出来の悪い夢のような、途中がすっぽりと抜け落ちたモノや、どう考えても出鱈目な繋がり方をしたモノが幾つも点在してるばかりで、それが元はどういった内容だったのか、何がどう本来のそれと違うのかが全く思い出せ無い。

「なん…何だこれは……うぅっ…………」

 急に自分の足元が何処にあるのか解らなくなりそうな不安感に悪酔いしたライナスが、思わず口元を押さえて立ち眩みに耐える。

「心配しなくても何かきっかけがあれば、記憶なんてモノはじきに元に戻るだろう」

 彼の心内を読んだかのような台詞を、ヤスリをかけた爪にふっと息を吹き掛け女が言う。

「……いったい何者なんだ、お前は」

「レヴィル」

「?」

「私の名前だ。これから長い付き合いになるんだから、貴様のポンコツ頭にしっかり刻み付けておけ」

 言い表しようのない不気味さを感じ、ライナスはこの薄暗がりから逃れる為ベッドから起き上がる。すると、掛かっていたシーツがはだけ引き締まった上半身があらわになった。

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