《MUMEI》

 一瞬視線がレヴィルに向かう。何者かもよく解らない人間の目は多少気にはなるものの、最早どうでもよくなり始めた彼はシーツから無造作に抜け出した。

 青の聖服のパンツを履いてはいたが裸足だった彼は僅かに逡巡するが、別にそれで死ぬ訳じゃないしと考えたら馬鹿馬鹿しくなり、気にせずそのまま床を踏む。以外ときっちりと掃除が行き届いているからなのか、部屋のくたびれ方に比べ埃一つ落ちておらず、床の凍り付いた冷たさが足の裏に伝わって来た。

 天井から吊され、爪の先程までに搾られたランプの灯に浮かび上がる室内にはこれといった装飾品は見当たらず、ベッドから五、六歩の距離に、ブラインドでしっかりと封印された窓があった。

(空気が――、新鮮な空気が欲しい――)

 身体に絡み付くような嫌悪感を掻き立てる部屋の雰囲気を払拭しようと、おぼつかない足取りでそこへと向かう。

「痛い目を遭いたくなかったら、ブラインドは開けない事だ」

「?」

 しかし既にブラインドに指を掛けていたライナスは、彼女の忠告を聞き終える前に、薄くしなりの良い金属板の一枚を軽く押し下げていた。


 ジャッッ――


 隙間から伸びた一条の朱い光が、薄闇を切り裂くのと同時に彼の指の上を疾る。

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