《MUMEI》 そんな事になったらもう立ち直れない。一刻も早くここから抜け出そう。 自分のどこまでも転がり落ちて行きそうなネガティブ想像に軽い目眩を覚えながら、ソファーから腰を僅かばかり浮かせたその時、 「やぁやぁ、お待たせしました」 「わ、あっ、に、逃げてません!」 突然背中越しに掛けられた大きな声にパニくり、意味不明な事を口走ってしまう。 おずおずと後ろを振り向くと、くたびれた茶のスーツを着た見た事のある初老の男性がそこに立っていた。 「どうかしましたか?」 「あ、いえ、その、何でもありません」 初老の男性――櫻井 肇が、少し面喰らったような表情で聞いてくるのを、慌てて言い繕おうと努力する。 恥ずかしくて顔が熱い。真っ赤になっていたらどうしよう。そんな事を考えていたらますます顔が火照ってきたように感じてしまう。 「ん、まぁいいでしょう。それではどうぞこちらへ」 櫻井さんはたいして気にした様子もなく僕を促すと前を歩き出す。 ふぅ〜〜、良かった。 僕より少し高い位置にある肩幅の広い背中を見ながらつくづく思う。 顔が赤くなっているであろう事を指摘されなかった事もあるけど、なにより本当に『霊障清掃局』なんて部署が実在していた事に安堵した。 そんな事を考えている内にエレベーターに乗り込み、B2のボタンが押される。 「…………」 「…………」 僅かばかりの浮遊感の後扉が開くと、LEDライトに照らし出されて三方に延びる通路の、正面の通路を進む。 「………………」 「………………」 突き当たりを左へ曲がる。 「……………………」 「……………………」 前へ |次へ |
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