《MUMEI》

 僕が乗り込むと扉が音も無く閉じる。操作パネルのボタンは開閉の二つと、上下に並んだの二つの計四つしかない。ふしくれだった太い指が上下の下のボタンを押す。

「そういえば……」

 無音で下降する密室の中で、おもむろに櫻井さんが口を開く。

「まだ名前も聞いていなかったね」

「あ、はい。私の名前は高橋 司と言います。これが履歴書になります」

 あらかじめ用意しておいた履歴書を素早く鞄から抜き出して手渡す。

「ふ〜〜む、高橋 司、22歳。あぁ、今年大学を卒業したのか。ふんふん…………」

 履歴書を受け取ると、取り敢えずといった感じで斜めに目を通す。

 どうも僕に対する興味と言うか反応が薄い気がする。ひょっとして、気付かない内に何かしら減点になるような事を仕出かしてしまったんだろうか。

 もしそうなら何とか挽回しないとまた不採用になってしまう。

「あの……」

「所で高橋君。君の得意分野は何かな?」

 何か話さなきゃと口を開いた僕の言葉を遮るように、目の前の櫻井さん転じ面接官は質問してくる。

「はい!得意科目は近代史と日本史。大学では、都市における経済活動とエコロジーの利害関係についてと、終戦以降の国際社会においての日本国の功罪についての二本の論文を書きました!」

 質問に対する返答はハキハキと淀みなくを心掛ける。質疑応答で何とか名誉挽回しなくては。

 しかし、面接官は答えに満足しなかったのか、僅かだったが眉根を寄せた。

「いや、そうじゃなくてね。君はどんなチカラを持ってるのかってのを聞きたいんだよ」

 チカラ?身体能力とかそういった事かな?

「高校の頃、陸上部に所属しておりまして、200mと400m走の選手をしていました。記録は共に県大会4位が自己最高です」

 面接官の顔がにわかに曇る。何だ?いったい何がいけないんだ?

 背中を嫌な汗が伝う。頭の中でいろんな事がぐるぐると駆け巡りだんだん気分が悪くなってきた。

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫