《MUMEI》

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「課長さんなんですね」

緊張が解けたわたしが、彼の肩書きに対して言うと、彼は恥ずかしそうに笑って、『そんな、大したモンじゃないけど』と謙遜した。

『保険外交員を纏めるだけの仕事ですから』

「でも、大手の会社じゃないですか。テレビで、CMよく流れてるし」

『会社が凄いだけですよ。俺は単なるサラリーマン。至ってフツーの中間管理職です』

その言い方が何だか可笑しくて、わたしは笑ってしまった。彼も、電話の向こう側で笑い声をあげる。

「どうしてうちの学校に?生徒さんなんですか?」

わたしの問いかけに、彼は『違う、違う!』と明るく笑う。

『営業の外回りで、昼メシ食べようと思ってて。そういや有名なサンドイッチ屋があったなぁって、思い出してさ。ホントに偶然立ち寄っただけ』

彼の返事を聞いて、わたしは少し落胆してしまった。もし、隆弘が生徒だったら、学校で会うことが出来るのに、と。

『皐月さんは?』

「わたし?」

『あの学校で、フランス語勉強してるの?』

今度は彼が、わたしに尋ねた。

わたしは少し迷ってから、答える。

「元生徒。今はフランス語講師のアシスタントをしてます」

正直に答えると、隆弘はビックリしたようだった。

『アシスタントって、授業とかするの?』

「まさか。簡単な発音矯正とか、レポート添削とか、雑用ばっかりですよ」

わたしの答えに、隆弘は戸惑ったように、『でも…』と呟いた。

「皐月さん、若いよね?女の人にこんなこと聞くの失礼だけど、歳、いくつ?」

恐々尋ねた彼に、わたしは「若くないですよ!」、と笑った。

「もう26…今年で27歳になっちゃいますから」

そう言うと、彼は『若いよ!』と声を弾ませた。


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