《MUMEI》

『ガチャ』


扉は、簡単に開いた…
玄関の引き戸と、えらい違いだ…


中から淡い光りが零れる

「さぁ、入って…。社長がお待ちかねよ」


「は、はい…。し、失礼しますッ」


あれ?この女性は来ないのか…

少し残念…


中へ入ると、部屋の端から端まで、床から天井まで本に囲まれた空間に立派な机と社長椅子…


その社長椅子には、この部屋に、およそ似つかわしくない男が座っている



「ようこそ、妖怪屋本舗へ…」


男は、こちらをじっと見据えていた…


寝癖だらけのボサボサ頭に、透き通るような白い肌…


整い過ぎた顔には、赤みがかった双眸が列んでいる…


この男のどこが、この部屋に似つかわしくないかと言うと…

素肌に着込んだ真っ赤なスカジャン、体のあちこちにちりばめられた髑髏や勾玉のアクセサリー


そして、若すぎる年齢…

僕と同い年か少し上ぐらいかな…


そんなチャラい若造に、こんな立派な社長室は似合わない

それに、僕は
イケメンが嫌いだ



偏見と嫉妬で凝り固まった考えだって事は、自分が一番、理解している


「…あ、あのぉ…社長さん、いきなりですいませんけど…」


「…なんだ?」


「ここに来てから、よくわからない事ばかりで…少し…説明してくださいませんか?」


混乱している僕は、いつになく積極的に答えを求めた…

このままでは、ネタにすらならないからだ



「…まぁ、待て。そう焦るな…」

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