《MUMEI》

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from:タカヒロ
sub :しつこくてゴメン!

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夜遅くにごめんね。

やっぱり木曜…ってか、明日だけど、

皐月さんの用事が終わった後で構わないから、ちょっとだけでも会えないかな?

何か、来月が遠く感じて、ちょっと待ちきれないよ。

どうしても無理かな?



******



from:タカヒロ
sub :Re:しつこくてゴメン!

――――――――――――

そうだよね…。

お互い楽しむ為には、余裕がある時じゃないとだよね。

ワガママ言って、ゴメンね。

でも、明日、ホントに会いたいなって思ったんだ。

それじゃ、来月よろしく!
楽しみにしてるから!



******



―――閉めきった部屋の中に、一筋の風が流れ込んできた。



サラサラと優しくわたしの髪を撫でて、通りすぎていく。


添削していたペンの動きをを止めて、わたしは、顔をあげた。


ラボにいた講師が空気の入れ替えの為か、窓を開けていた。風の動きに合わせるように、白いカーテンがゆらゆら揺れる。


カーテンの揺れを眺めながら、昨日、隆弘から送られてきたメールを思い出していた。



―――わたしだって、出来れば今日、彼に会いたかった。

でも、今日はどうしても外せない用事があったから、彼の誘いを二度も断ってしまった。


申し訳ない気持ちで、胸がいっぱいになる。



…ごめんなさい。



ぼんやりと呟いたわたしの微かな声を、耳聡く、隣に座っていた同僚が拾う。

「なに?何か言った?」

同僚に尋ねられ、わたしは曖昧に笑って誤魔化した。同僚は特に気にならなかったのか、それについて追及することはなく、

代わりに、

「山本さん、何だか雰囲気変わったね」

突拍子もなく、そんなことを口にした。


眼鏡を掛け直して、わたしは眉をひそめる。

『雰囲気が変わった』と言われても、いまいちよく判らなかった。

別段、服装に気を遣っているとか、化粧を変えたとか、そんなことは一切していない。至って普段通りの格好をしているのに。



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