《MUMEI》 . 「どこが?」 わたしがストレートに尋ね返すと、彼女は首を傾げて、「外見がどうのっていうワケじゃないんだけど…」と、ゆっくり答えた。 「何だか、前より柔らかくなったって言うか…明るくなったのかな?」 曖昧に返されて、わたしはますます眉間にシワを寄せた。 「そうかな?」と訝しんで呟いたわたしに、他の同僚が、「わかるー!」と話に加わった。 「わたしもそう思ってた!表情とか口調とか、全然違うんだもん!」 「そうそう!刺々しさが無くなったって言うのかな?前は何を言っても、ツーンとしてたけど」 口々にそう言われ、わたしは思わず苦笑した。今までそんなこと意識してなかったけれど、わたしは随分、ツンケンした女だと周囲から思われていたらしい。 「感じ悪くてスミマセンね」 冗談めかして言ったわたしに、みんなが声をあげて笑った。 ひとしきり笑った後で、同僚のひとりが、 「何か良いことあったの?」 突然、尋ねてきた。 わたしは笑うのを止め、黙り込む。 『良いこと』 なんだろうと考えるうち、思い浮かんだひとつの顔。 ―――それは、 あのカフェテラスで、出逢った隆弘。 彼と出逢い、話をするうちに、わたしの気持ちはどんどん穏やかになっていった。 黙り込むわたしに、さらに他の同僚が口を出す。 「もしかして、好きな人でも出来た?」 わたしは、同僚達の顔を見つめた。好きな人。その言葉を胸の中で反芻し、脳裏に浮かんだのは、やっぱり隆弘の顔だった。 …好きになったっていうの? たった一度、顔を合わせただけの、あの彼に。 頭の中に、隆弘が言った『一目惚れ』という言葉が浮かんだ。 …わたしも、『一目惚れ』したのだろうか。 隆弘がわたしにしたように。 いくら問いかけても答えは出ず、わたしは興味津々なみんなに、ゆったり微笑んで、「秘密です…」と、小さく呟いた。 . 前へ |次へ |
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