《MUMEI》 ぼくの記憶の中では鳥さんの皮膚は硬そうなイメージだ。 でも、あったかかった。 包帯を巻いたときの記憶だ。 「見たら帰れよ。」 仕事着の襟が解禁されてゆく。 鳥さんは黙々とシャツを脱いでいった。 髪に白髪が混じり、目尻も下がってきてるけど、僕の中の鳥さんそのままだ。 違いは、スーツじゃなくて作業着というくらい。 「それ……?」 当時、ぼくが押し入れで飼っていた硬質な身体を見て、この人を刺した感触が手の平に浮かぶ。 「銃痕だ。」 触ると少し筋肉が動いた、鳥さんの声も少し震えたのが分かる。 前も、触られるのが嫌いみたいだった。 「……痛い?」 「痛みは無い。お前のは反対、これ。」 蚯蚓腫れ程度の赤い傷痕だった。 「……ぼく、たまに感触があるよ。鳥さんを刺した時の。」 貫通するあの重さ。 「俺もある……」 「鳥さんは、組員だった頃に殺めたことある? 愛しい命を掌の中で握りしめた感覚で、平静を保てた。」 鳥さんは優しいから、そういうのは出来ないと思っていた。 「背中の墨は戒めだ。」 羽を広げる鳥は綺麗なだけではないことを知った。 「ぼくも、入れてるんだ……」 鳥さんは何かを言いたげにしている。 前へ |次へ |
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