《MUMEI》

「――っっ!!」

 耐え難い激痛が、光を浴びた指先から脳天へ駆け抜ける。何が起きたのかと痛みを堪え見やると、夕日の朱い光を浴びた右手の中指が、まるで溶けてグラグラと煮えたぎる鉄で一杯にした炉の中に突っ込んだように、ぐずぐずに焼け爛れ、皮膚が腐れて剥がれ落ち、黒に近い赤紫色に変色した肉には、小さな水泡が幾つも浮かび上がっては弾けて、中に詰まった赤黒い血や薄黄色濁った汁を吹き出す。

「だから忠告してやったのに」

「な、何がっ!?……っぐぅぅっ…………くっ」

 額に脂汗の玉を浮かべ必死に痛みに堪えるライナスの隣へと、レヴィルが溜め息混じりに近寄り、彼の毒々しいまでに痛々しい傷口を晒す右手を強く掴む。

「何をっ!?」

「動くな、鬱陶しい」

 掴まれた右手をほどこうとしてそれが出来ないのは、痛みで力が入らないせいだけではないだろう。

 彼女は右手に、いつの間に取り出した物なのか、手のひらで隠せそうな小振りのナイフが一本握り、躊躇無くそれを一閃させた。


 ジャッッ――――!


「ぐぁぁっっ!!」

 その閃きは、きな臭い悪臭を振り撒く中指を根元から切断し、軽く宙を舞って足元に転がり落ちる。

 レヴィルがヒールで汁を撒き散らすそれを踏み潰す。するとそれはえも言えぬ不愉快な音を立て、灰のような細かい粉となって崩れ去り、床に溶けるように消え去ってしまった。

 そして彼女は自分の右手の中指を口に入れ、綺麗に生えそろった白い歯で迷いもせずに噛み切る。掌に唾液と血に塗れ、てらてらと濡れるそれを吐き出すと、彼の切り落としたばかりの、ぼたぼたと血が溢れ出る傷口に突き立てた。

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