《MUMEI》
家族との絆
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仕事を終えてから、わたしは真っ直ぐ駅に向かい、いつも利用する路線とは違う電車に乗り込んだ。

車内には、サラリーマンや学生など、家路を急ぐたくさんの人達で混み合っている。

その中に紛れて、わたしはドアの近くにある手摺に掴まり、窓の外をぼんやり眺めた。

真っ暗な夜の闇の中、幻想的な繁華街のネオンが、ひっきりなしに流れてゆく。

次に、ガラスに映った自分の顔を見つめた。疲れきった表情を浮かべる、只の女の顔。気づかないうちに、随分と老けた気がする。


何だかガッカリして、人知れずため息をついた。


電車は快調に走り、目的の駅でわたしは電車から降りた。ひんやりとした、夜の匂いに包まれる。

間もなく扉が閉まり、電車はゆっくりとホームから走り出す。ゴー…という唸り声と、吹き抜ける風を身体で感じながら、改札口を目指して歩き出した。



******



降りた駅には、たくさんの飲み屋が並んでいて、ちょっとした繁華街のように賑わっている。ビルの前や、路地の隙間で道行く人々に声を掛けている、客引きの姿もちらほら見受けられた。

わたしは駅前のロータリーまで出てから、タクシー乗り場へと向かう。

そこ待機していたタクシーに近寄ると、後部座席のオートドアが、ゆっくりと開いた。薄暗いシートに、わたしは身を滑り込ませる。

「…社会保険病院までお願いします」


ドアが閉まるのと同時に、運転手に行き先を告げると、タクシーは静かに走り出した。

車内は、とても静かだった。唸るようなエンジン音と、時折、タクシーの無線から、くぐもった男の声が何やら指示を出す以外に、音はなかった。


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