《MUMEI》

 「教師寮での仕事、ですか?」
卒業も間近に迫った三月の初旬
不況の煽りを受け四月から就職浪人となる事が決定していた岡本 環は
どうしてか担任に職員室へと呼び出されていた
話が始まり、だがそれは理解するには余りに不可解なものでつい、聞き返す事をしてしまっていた
「そうなの。其処ね、本来管理人さんが居たんだけど、今週いっぱいで退職しちゃうの。それで、岡本さんどうかなって」
「話は解りましたけど、なんで私に?」
職に焙れてしまったのは何も自分だけではない
それなのに何故自分に、と岡本は首をかしげて見せる
「あ、それはね。そこに住んでる先生達からの御指名って処かしら」
「……御指名って。何かすっごい胡散臭いんですけど」
「あら。大丈夫よ。学校からの正式な依頼だから」
「そうじゃなくてですね……」
「頑張って!岡本さん。もうあなただけが頼りなの!」
手をしっかりと握りしめられ、懇願されるかの様に言われてしまえば
断ることなど到底出来なくなってしまう
「あの……。先生?」
「そうと決まれば早速お願いするわね」
これが地図だと紙を渡され、話は井上の意思関係なく勝手にまとまってしまっていた
そのまま強制的に職員室を追いやられ、それ以上の疑問も文句も岡本は言えなくなってしまっていた
「一体、何なの?」
結局何一つ解らないまま
岡本は仕方なく手渡されてしまった地図を元に
強制的に目的地となってしまった教師寮へ
しばらく歩いて到着した其処は
まるで一軒家の様な佇まいで
その大きさに、岡本は立ち尽くしていた
「何、なの?ここ……」
呆然と暫くそのままで居ると不意にそこの扉が開く
中から現れたのはぱっと見、女の子なのではと思ってしまう程可愛らしい男性だった
「あれ?お客さんなんて珍しいね」
岡本を見、小首を傾げる相手
咄嗟にどう説明していいか分からずに居ると
「……そういや今日だったか?この寮にメイドちゃんが来るって話」
奥から、また別の声が聞こえてきた
「へぇ。結構可愛いじゃねぇの。で、メイドちゃん。お名前は?」
いつの間にか近く寄ってきていたその男からの問いに岡本はやはりたじろぎ
だが
「……岡本、環」
一応は答えて返していた
「たまき、か。なら、タマちゃんだね」
「え?」
にこやかな声が相手から返り
だがその呼び方は何となくだが受け入れ難かった
まるで猫扱いされている様で
その旨を伝えようと口を開き掛けた、その直後
建物の二階から、何かが崩れる様な音が鳴り響いた
「な、何!?」
「あ〜あ。まぁたトラの野郎かよ」
「虎!?ここ、そんな危険な動物飼ってんの!?」
「はぁ?お前、何言ってんだ?」
「だって、今虎って……」
獰猛なその動物のなを聞かされ、すっかり混乱の渦中にいる岡本
冷静に考えればそんな事がある筈はないのだが
次々起こる事態に、つい冷静な判断が出来なくなってしまっているらしい
「……本気勘違いかよ。つまんねぇなぁ。おいトラ、起きやがれ!」
音が聞こえてきた二階へ
階段から怒鳴り散らして見れば
暫くの沈黙そして
「……うるせぇよ。馬鹿大吾」
不機嫌丸出しの男が一人、そこから現れた
ゆるり階段を降りながら、その最中僅かに岡本へと視線を向ける
「……女?」
明らかに怪訝な表情で
鋭いその視線に威圧され、岡本は二、三歩後ろへとたじろいでしまっていた
後ずさることばかりに集中していた所為か
途中、足下に転がっていたねじの様な何かを思い切り踏んでしまい
岡本はバランスを崩し後方へと倒れ込んでしまう
「大丈夫ですか?」
完璧に倒れ込んでしまう寸前
背後から突然に伸びてきた手に身体を支えられる
顔を見上げる様に伺った其処には
長髪の、和装美人が立っていた
「あ、ありがとう、ございます」
礼を伝えてやれば、相手から柔らかな笑みを返され
寄り掛っていたらしい身体がゆっくりとおこされた
「……皆さん、可愛いお手伝いさんが来たからっと言っても少しはしゃぎすぎですよ。少しは落ち着いて下さい。それに高虎。身なり位整えてきたらどうです?もうすぐ授業でしょう?」
一気にその人物が喋る事をすれば
周りから何故か起こる拍手

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