《MUMEI》

「何をですか?」



クロの言葉に佑香が反応する。



「この試合は今の1点で詰んだ。


そういう試合運びをさせてたからね。


そういう…


一言で言えば性格の悪い試合を。」



「えぇ?
あたし訳わかんないんですけど…?」



「向こうのファールトラブルを誘ったのも、


トリッククロスも、


全ては伏線。


このたった1回のパスカットの為の。」



「それが…
何で詰み?になるんですか?」



「問題はスコアじゃない。


たぶん、


純粋なスコアゲームを挑んでたらまだ競ってるかちょっと勝ってるくらいの点差だっただろうね。」



「…スコアゲームって何ですか?」



「ん?


意味は特にない。


普通の試合運びをしてたらってこと。」



「あぁ…


すいません。


続けてください。」



「今回のポイントはいかに楽に、


そして早く勝負を決めるか。


それは次の試合も、


その次の試合も見据えた作戦。


だから僕は今回心を鬼にして卑怯な戦略に出た。」



「卑怯な戦略?」



「…狙いは相手の戦意喪失。」



「はぁ…?」



「どの段階で勝負を投げさせるか?


そしてそれを1番効果的に行えるのが今のプレー。


パスカットからのカウンター。」



「…」



「たぶんそれのどこが悪いんだ…って佑香ちゃんは思うかもしれないけどさ、


これは高総体。


練習試合とか、


市民体、


市内リーグでなら別になんてことない勝ち方かもしれないけど、


3年生にとっては高校生活最後の大会。


その大会の途中で勝負を投げさせるんだよ?


相手には一生の後悔が残る。


そんな勝ち方を、


今回僕は選んだ。」



「…」



「…どう思われるかはわかんね〜けど、


でもやっぱり、


僕はあいつらを優勝させたいから。」



「クロさん…」



「悪いけど競ってる場合じゃない。」

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