《MUMEI》 . だから、長女であるわたしが、講師アシスタントという、名ばかりの職に就いた時、父は本気で怒った。 「ふざけるな!そんな下らないバイトをさせる為に、高い授業料を払ってやってた訳じゃない!通訳の夢はどうしたんだ!?夢を叶える為に、お前は一体、何を努力した?そのアシスタントとかいう仕事を続ける限り、俺はお前のことを、絶対認めないからな!!いいか、覚えておけッ!」 激しく恫喝しながら、見下すように冷たい目をわたしに向けた、父。 それでもわたしは父の意に背き、アシスタントの仕事を辞めなかった。 絶対に父の言うことなど聞くもんかと、わたしも意地になっていた。 思えばそれは、全く家庭を顧みず、ただひたすら仕事に打ち込む父に対して、わたしなりの抵抗だったのだろう。 アシスタントになってすぐ、わたしは父から逃げるように、家を出て、一人暮らしを始めた。 わたしの生きざまに、何かに付けて口煩く罵る父を、ずっと疎ましく思っていたから。 ―――そんな父が、今、 誰かの世話にならなければ、何ひとつ儘ならない人間になってしまった。 癌という名の、『悪魔』に侵されて。 父はペットボトルから乾ききった唇を離して、ゆっくりわたしの顔を見上げた。 「飯は食ったのか?」 小さく尋ねてきた父。 仕事帰りに病院に寄った時はいつも、わたしはひとりぼっちで食事をする父を気遣って、この病室で、病室内にあるコンビニで調達した弁当を食べるのだ。 わたしは首を横に振る。 「今日はこれから、友達と約束してるの」 父を見舞った後、わたしは高校時代の友人と飲みに行く約束をしていた。 . 前へ |次へ |
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