《MUMEI》

「今回だけはサービスだ。次からは自分で何とかするんだな」

 そこまでの動作をひと呼吸程の手際で行うと、次は血一滴流れない傷口にナイフを、眉一つ動かす事なく突き立てる。

 その行為に眉をしかめ嫌悪を見せるライナスだったが、次の瞬間、その表情は驚愕へと移り変わる。

 突き立てた硬い金属の刃がぐにゃりと形を変え、僅かな時間で細く長く柔らかい中指を形作ってしまった。

「……どんな……どんなトリックを使えばこんな事が出来るんだ?」

「トリック……?」

 ライナスの、状況を理解しきれない困惑した問い掛けに、それまでの冷たい大人の女の表情から一変、キョトンと子供っぽい可愛いらしい表情を見せたかと思えば、腹を抱える程の勢いで声を上げてレヴィルが笑い始める。

 笑い続けるレヴィルに、ライナスの顔にさっと赤みが増す。

「何がおかしいっ!」

「いや…済まない。あまりにも想定外な言葉だったものでな」

 久しぶりに笑ったと目尻に浮かんだ涙を拭いつつレヴィル。

「力の使い方さえ覚えればこの程度の事、貴様にでも容易に出来るようになるさ」

 それが当然といった口ぶりで、レヴィルはもと居たロッキングチェアに腰を下ろす。

「力……」

 自分の右手を見つめ呟く。

 中指だけがきめ細かな肌をした女の指で、それが自分の意志で何不自由無く動く事に、言い表しようの無い不気味さを感じた。

「力ってのは一体何なんだ?」

「力は力さ。
 太陽の下では存在した事さえも拒絶される『夜を歩く者』――<ナイト・ウォーカー>の力……」

「ナイト……ウォーカー……」

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