《MUMEI》

 二度目の突進も転がるようにして辛くも避ける。

「符術?式神?言ってる意味が解りません!!」

「まぁたまたぁ。それだけ大きな霊力を惜し気も無く垂れ流してて、解らないもへったくれも無いだろう」

「本当ですっっ!!」

 三度目の突進。


 速い――!


 一度目と二度目よりさらに一段ギアを上げての突進が来る。しかし、真っ直ぐ迫って来るだけだから、真横に跳べば何とか避けられるはず。

 スーツの縫い目がミチミチ言っているのは一先ず無視して、ヘッドスライディングするように左へと跳んだ。

 避した――!と思ったのも束の間。

 僕が跳んだ瞬間、一歩足を突き出しただけで急制動を掛けると、次の一歩で僕の真横に並んだ。

 手足を伸ばして地面と平行に跳ぶ僕と、ファイティングポーズのまま平走する櫻井さん。

 一秒の十分の一以下の静寂の後、黒皮の手袋が残像を残して、鳩尾に深々と突き刺さる。

「――――っっ!?」

 痛みよりもまず、横隔膜が競り上がって息が吸えなくなる。

 押し潰された胃から胃酸と朝食べたコンビニのツナマヨむすびが逆流する。

 衝撃が背中へ突き抜け、身体が重力のくびきを解き放って、後ろへと引っ張られる。

 視界がカメラのフラッシュを焚かれたように真っ白になって、身体が床に叩き付けられた拍子に元に戻る。

 最後にお腹がよじれる程の痛みに声にならない悲鳴を上げた。

 しかし、痛みにのたうつよりも次激に備える為に、ギュッと目をつぶり頭を抱えて身体を丸くする。

 一秒……二秒……。

 待てど暮らせど一向に次の攻撃が来る気配が無い。

 恐る恐る涙とよだれに塗れた顔を上げると、困ったような呆れたような顔をした櫻井さんが、僕の情けない姿を見下ろしていた。

「お前さん、ホントに何も解らないのか?」

「だから、最初から、そう言ってる、じゃ……ない……か…………」

 そこで僕の意識は深い深い海の底へと沈んで行った。

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