《MUMEI》 . ――ナイト・ウォーカー。 それは遥か昔の伝承や異教の聖典、半ば忘れ去られた神話の中に出て来る神の使い、もしくはクルスト教の聖書に語られる、神に仇なす闇の眷属達の総称――。 「俺がナイト・ウォーカーッ!?」 「何だ?自ら望んでおいて今更怖じけづいたのか」 ロッキングチェアを軽く揺らし、せせら笑うような視線をレヴィルが投げ付ける。 「望んだ?俺が?」 「私はそう聞いている。違うのか?ブラッド」 ライナスに向けて会話をしていたレヴィルが会話の相手を変える。しかし、この部屋にライナスとレヴィル以外誰も居ないはず。 訝しげに彼女が声を掛けた方を向くが、そこにあるのは安っぽい、そして薄っぺらな木のドアが一枚あるっきり。 「――――っ!?」 よく見るとそのドアから一本の節くれだった棒のような、赤黒い皮手袋を嵌めた人の指が生えていた。それがドアからずぶずぶと伸び、他の四指も生え出すと、直ぐにそれは左手首に変わる。 それ以外にも足、膝、腕、肩、胸、顔と徐々にせり出し、何事もなかったように閉まるドアの前に、一人の黒ずくめの――限りなく黒に近い赤一色を身に纏った長身の痩せた男が立っていた。 「死にたがっている人間を無理矢理どうこうするような趣味の悪さは持ち合わせていないつもりだがな」 「私だってそんな面倒をわざわざ背負い込む趣味はない。まあ、時と場合によっては、その限りではないがな」 「違いない」 何を思い出したのか、口元に浮かんだ含み笑いをふっと消し去ると、ドアからせり出してきた男は首を巡らし、視界の中にライナスを捕える。 「覚醒までおおよそ一週間か。三〜四日程度で目覚めるかと思ったんだがな」 この男がブラッドか――。 彼はそう言って一瞥だけくれると、それでライナスへの興味が失くなったのか、再びドアに潜り込もうと踵を返す。 前へ |次へ |
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