《MUMEI》

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亜美は、一回り以上歳上の、和樹(カズキ)さんという男の人と、付き合っていた。以前、彼女自身からその話を聞いていたし、和樹さん本人にも、一度だけだが、会ったことがあった。


落ち着いた雰囲気と、笑う時、目尻にほんのり皺が浮かぶ、柔和で、とても感じの良い、大人の男の人。


本当に感じが良い人で、優しそうで、そんな彼に、亜美はすぐ夢中になった。



けれど、

和樹さんには、奥さんと、子供がいた。



―――要するに、不倫だった。



不毛な関係。

道ならぬ恋。

インモラル。



亜美からそれを打ち明けられた時、そんな穢らわしい言葉だけが、わたしの頭を巡った。


わたしは、亜美に、和樹さんと別れた方が良いのではないか、と諭した。それは、彼女がやがて深く傷つくことになってしまうとか、そういった理由ではなく、ただ単に、社会的に認められない、卑しい関係だと感じたからだ。

不倫は、悪いこと。

厳格な父に育てられたわたしにとって、社会からはみ出すような行為は許されざるものだった。

しかし、説得したわたしに、亜美は儚く笑って、「いいの…」と、弱々しく、呟いた。

「和樹さんが、好きなの。本当に、本当に、好きなの。その、好きになったひとが、たまたま結婚していた、それだけのこと」

彼女の言葉には、孤独とか切なさとか、そういった悲しい響きをはらんでいた。

亜美は、ちゃんと判っているのだ。和樹さんとの、その恋愛が、けして許されるものではないということを。

それに気づいたわたしは、それ以上、亜美に何も言えなくなってしまった。


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