《MUMEI》

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―――そして、

今日、亜美は、妊娠した、と打ち明けた。それは他でもなく、和樹さんの子供だと、彼女は言った。

「何か変だな…と思って、検査をしたの。そしたら、お医者さんから、『おめでとうございます』って、言われた」

ポツリポツリと、彼女は無表情で続ける。その様子はまるで、ロボットのように無機質なものだった。

「…和樹さんには、相談したの?」

わたしは、恐る恐る尋ねた。亜美は、ゆっくり頷く。

「『堕ろしてくれ』、だって。顔、真っ青にして、土下座されちゃったよ」

そこまで言って、彼女は笑った。空虚な響きだった。

わたしは何も言えなかった。気の利いた言葉が、どうやっても浮かんでこない。

「…どうするの?」

やっとのことで、尋ねたわたしに、亜美はせせら笑い、「どうするも何も」と答えた。

「堕ろすわよ。独りじゃ育てられないもの。和樹さんは、認知してくれないだろうし」

軽い調子で放たれたその台詞は、重くわたしの心にのし掛かってきた。



…酷い。



漠然と、そう思った。

それは、無責任な和樹さんに向けてなのか、自分勝手な亜美に対してなのか、よく判らなかった。


黙り込むわたしに、亜美は、まだ目立たない自分のお腹を優しく撫でながら、


「…わたしは彼にとって、結局、どうでもいい存在だったの。子供を堕ろすことで、わたしが肉体的にも、精神的にも深く、深く傷ついたって、彼は何とも思わない…そんな、軽い関係だったの」


子守唄を唄うように柔らかく、囁いた。


その、密やかな囁きが、


まるで、『昔の自分』に向けられているようで、


いつまでも、耳から離れなかった。



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