《MUMEI》

「休まなくていい?」

国雄が心配そうだ。


「忙しい方がいい。」

色んな感情に振り回されたくない。
仕事に集中していた方がずっと気持ちが楽だ。


「……そう。」

それだけ言うと、いつもの敏腕まねいじゃに戻った。

一昨日の葬式では、棺桶の中の父さんは、小さくて、そして綺麗な印象だ。

奥さんは気丈にも喪主を努め、母さんが意外にも涙していた。
考え事をしていて虚ろな目線だったのか、カメラマンに注意された。


「光、ちょっと。」

国雄に手招きされた。


「はい、なんでしょう。」

休憩中だが、時間も無いので自分で服を直しながら向かった。


「……俺がマネージャーじゃなくて、小暮国雄だったら、いますぐにでも光を連れ出してやったよ。」

この、イイ男体質はマネージャーになっても直らないようだ。


「皆待ってるから、出来ないよ。それに今は仕事してて落ち着いてる。」

俺の生きる糧であり、平静でもある。


「俺じゃ、支えるのに足りないのが悔しい。
お前が静かに壊れていかないか、とか……。見てても光は役者だからはぐらかす、本質は目を離すとすり抜けるから掴んでないと。」

心配、という言葉を飲み込んだ。
いつもより、自信なげな国雄も好き。
俺を好きで堪らないってのが分かるから。


「触ってていい?あったかいの好き。」

国雄の体温は落ち着く。
俺の底に溜まるものを和らげる。


「……ごほん。」

茉理が咳込んだ。
俺が、高遠光だと思い知らされる。

国雄がマネージャーで、俺を支えてくれるのは嬉しいんだけれど、本当は馬鹿みたいに二人で一日中イチャイチャしてたい。
お互いそういうのは冗談や情事の時しかやらないし、普段はそういうの意識しないけれど、やっぱり周りに馬鹿ップルが居ると比べてしまう。

人肌恋しいと余計なことも考えてしまうから気をつけなければ。

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