《MUMEI》

「冗談じゃない!僕は自衛隊の面接を受けに来たワケじゃないんだ!」

「そりゃそうだろう。ここは国土交通省であって、防衛庁じゃあないんだから。

 あ、ちなみに自衛隊は軍隊ではないから、基本的に戦争はしないよ。憲法でも規制されてるからね」

「そんなぐずぐずなプチ情報は要りません!っじゃあ、国交省が何と戦うって言うんですか!?」

 その質問に、それまで柔和だった櫻井さんの表情が、すっ――と真剣な面持ちに変わった。

「高橋君。君は幽霊や妖怪変化と言った存在は信じるかい?」

「はい?」

 何を言ってるんだろうか、この人は?

 言葉の真意を探ろうと改めて表情を覗き見るけど、その顔は嘘や冗談を言っているようには見えない。いや、見えないからこそ逆に怪しいと言えなくはないだろうか。

 とにかく、言葉の真意なんて到底読み取れない僕は、思った通りの答えを口にする。

「そんなの居るワケないでしょう」

 その返答に、やれやれ残念だと言わんばかりの溜め息をつかれる。

「視えない人間が答える模範的解答をありがとう。君は人並み以上に霊力はあるのに、霊感は欠片も持ち合わせていないようだね」

「あの、櫻井さんには視えるんですか?その……幽霊とか、そういう類いのモノが」

「視えるも何も、『霊障清掃局』とは、そういう類いのモノを退治・除霊する機関だからね。視えるどころか戦いもするさ」

 なんだろう……来ちゃいけない所へ来てしまった気がする。

 目の前の初老の男性が冗談や笑い話ではなく、真面目にオカルト話をしているのがもの凄く怖い。

「あの……戦うっていうのは、テレビの特番でやってるような、よってたかってお経を唱えたり、罵声を浴びせかけられたりといったような感じのモノなんですか?」

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