《MUMEI》 . ―――人は、どうして恋をするのだろう。 恋は、けして美しいだけでは、ない。 時に激しく、 時に非情なまでに、 その身を焦がし、傷つけ、痛めつける。 歓びと哀しみが、表裏一体であるにも関わらず、 人は、恋をする。 …それは、なぜ? 傷つくと判っていながら、亜美のような明朗な女の子が、 許されない不毛な恋愛にどっぷり首まで浸かってしまうのは、なぜ? 恋は、人を傷つける。 判っていても、わたし達が、恋することを止めないのは、なぜなんだろう。 ****** ―――一抹の、不安はあった。 例えば、隆弘とメールをしている時、 夜中に彼と電話をしている時、 真っ黒なタールのようなそれは、わたしの心の端っこから、徐々に蝕み、腐蝕させる。 ある、土曜日。 仕事が休みだったわたしは、何の気なしに、隆弘にメールを送った。手持ち無沙汰で特にやることもなく、暇潰しに彼にメールを打った。 その前の日、隆弘も土曜は休みだ、とメールに書いてあったから、相手をして貰おうと思ったのだった。 すぐに返信があるだろうと安易に思っていたが、 1時間が過ぎ、2時間が過ぎても返事がなかった。 休みだから、どこかへ外出していて、わたしからのメールに気づかないのだろうか。 そう思い付いて、深くは考えなかった。 しばらく待ってみたものの、結局、土曜日に返事が来ることはなく、 日曜日の夕方を過ぎても、さっぱり音沙汰がなかった。 . 前へ |次へ |
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