《MUMEI》
呪縛
.


―――それが例え、自分の意に反することであっても、



どうしても、抗えない時がある。



抵抗しようとすればする程、



それはわたしの心の一番柔らかい部分を目掛けて、



じわじわと侵食していく。



望んでいようがいまいが、そんなことはお構い無しに、



わたしを取り巻くこの世界は、



悪い方へ、悪い方へと傾いていく…。



******



亜美から、メールが届いた。


例の、和樹さんの赤ちゃんの、中絶手術を受けたという報告だった。


心配になったわたしは、メールを読んで直ぐ、亜美に電話をした。

数コールでその電話に出た彼女は、わたしの予想に反し、明るかった。


『疲れたー!!まるで脱け殻!赤ちゃんと一緒に、身体から色んなもの全部、抜き取られちゃったみたい』


あっけらかんと冗談まで口にする亜美に、呆気に取られながらも、わたしは尋ねた。

「和樹さんは、どうしたの?」

恐々尋ねると、亜美は冷めた声で、『ああ…』と声をあげ、

『知らない。家族サービスに忙しいんじゃないの?ずっと浮気してた後ろめたさがあるだろうから』

と、答えた。
わたしは眉をひそめる。

「…でも、手術を受けたんでしょう?二人の問題なのに、そんなのって」

無責任じゃない?

そう続ける前に、亜美が『仕方ないわよ』と言った。

『それが愛人ってことなの』

全てを悟ったような亜美の台詞に、わたしは何も言えなかった。

少しの沈黙の後で、


『とにかく、和樹さんとはもう終わったの。きれいサッパリ別れた。二度と関わることないから、皐月もそんなに心配しないで』


軽やかに笑いながら、最後に亜美は囁いた。


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