《MUMEI》 . 携帯を閉じて、しばらくじっとしていた。 ―――それが、愛人。 どんなに愛し合っても、大切に想っていても、 二人の関係は常に平行線で、けして交差することはない。 そして、 もしかしたら、わたしも、 亜美と同じような道を、歩み始めているのかもしれないのだ…。 ****** いつもより早く仕事が終わった、その帰り道。 父の病室に見舞いへ行こうかと思っていたが、止めた。隆弘のことを色々と考えすぎて、何だか疲れてしまっていた。 そのまま駅に向かい、帰宅するため、いつもの電車に乗り込んだ。電車はやっぱり混んでいて、さらに気分が滅入った。 吊革に掴まり、電車の揺れに身を任せる。車窓に、薄ぼんやりと、自分の姿が映し出された。 Tシャツにメンズもののワークパンツ。足元は履き古したスニーカー。手入れが行き届いていない、ボサボサの長い髪。化粧っ毛のない、ぼやけた顔にはっきりとその存在を主張するような、黒ぶちの眼鏡。 美しさの微塵もない、つまらない女の姿。 こんな奴の一体どこに魅力を感じて、隆弘はわたしに声をかけてきたのだろう。 不意に軽やかな笑い声が聞こえて、わたしは視線をゆっくり流す。 わたしが立っている場所から少し離れた所に、若い女の子達がいた。 大学生くらいだろうか、露出した肌は明るくみずみずしさを感じさせる。 彼女達は、今風の化粧をして美しく着飾り、華やかな笑みを浮かべ、楽しそうにお喋りに夢中になっていた。 その眩しい少女達が、 今の自分と同じ世界にいるようには、到底考えられなくて、 何故か判らないけれど、激しい焦燥を感じた。 . 前へ |次へ |
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