《MUMEI》

「いや、あんなまどろっこしい方法は取らない。実際はもっとシンプルで、もっとスピーディーな方法を行う」

「例えば?」

「取り囲んで殴る蹴る」

 ここに居ちゃいけない気がする。

「あの、急用を思い出したので、今すぐおいとましたいんですが……」

「ん?そうかい?それは残念。それじゃあ仕方ないけどこの話はここまでにして、上まで送っていってあげよう」

 実際どうなのかは解らないけど、さして残念そうには聞こえない声音でそう言うと、膝に手をあてがい「よっこらしょ」と立ち上がる。

 しばらく無言が続く。そう言えばここはドコなんだろう。さっき上まで送るって言ってたんだから、まだ地下なんだろうけど……。

「しかし勿体ないねぇ……」

 履き馴れない革靴に足を詰め込み、脱衣かごから取り出した、よれよれになった上着に腕を通していると、壁に寄り掛かって僕が着終わるのを黙って待っていた櫻井さんが、溜め息を吐き出すようにしみじみ呟いた。

「何がですか?」

 その聞こえよがしな呟きについつい反応してしまう。

「いやなに。それだけ大きな霊力を持っていながらそれに気付きもせず、気付いても使い方が解らず結局使わないのかと思うと、いささか勿体ないなと思ったりしてね」

「そんなに大きいんですか?僕の……チカラとかいうのは?」

「そりゃあもちろん。常人10人以上の霊力を束ねたくらいはあるかな。私なんて、3人かせいぜい4人分くらいしか無いって言うのに。全くうらやましい限りだよ」

 誉められてるのかどうか今一つはっきりしないけど、悪い気はしない。しかし、それとこれとは話が別。いつまでもここに留まるつもりはさらさら無い。

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