《MUMEI》

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わたしは他のアシスタントと共に教室に入り、マンツーマンで生徒の発音矯正を順々にしていった。
わたしが机の前にやって来ると、生徒は不馴れな様子で、母音と子音、そして半母音などの発音を順番に始める。わたしはじっと耳を傾けて、生徒の発音に集中した。

「…《R》の発音、ちょっと違うな。舌の位置が違うんだと思う…普段、うがいをする時、奥の方に舌を持っていくでしょ?そんなイメージでやってみて」

わたしのアドバイスを聞いて、その生徒はもう一度挑戦した。先程よりは良くなったが、ネイティブの発音にはまだ、程遠い。

「舌はもっと奥に…少し息苦しいって思うくらいの場所まで持っていくの。いい?わたしがやってみるから、ちょっと聞いてて」

そう言って、わたしは生徒に《R》の発音の手本を聞かせた。発音は、昔から得意だった。まだ生徒だった頃、フランス人講師から留学の経験を聞かれた程。

わたしの手本を聞いた生徒は、また挑戦した。さっきよりぐっと良くなった。この程度なら、許容範囲内だろう。

「…《R》はそんな感じでいいと思います。不安なところは、狭窄子音かな?息を吐き出すスピードがちょっと弱いみたい。よく練習しておいてください」

わたしは腕に抱えていたチェック表に、目の前にいる生徒の発音評価を書き込みながら、アシスタントらしく注意した。

生徒は気まずそうに笑い、「はい」と気持ちよく返事をすると、続けた。

「ちょっと緊張しちゃって、今日は上手く出来ませんでした」

冗談めかした生徒の言葉に、わたしは視線を持ち上げて、「緊張?」と尋ねた。

「どうして?」

講師ならともかくとして、生徒がアシスタント相手に緊張することなど、まず無い。だから、この生徒が言った意味が、わたしにはさっぱり判らなかった。


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