《MUMEI》
俺の主人
朝、俺の仕事は電話をかけることから始まる。

「おはようございます、社長。朝ですよ。起きていますか?」

『んあ〜…。もう朝かぁ』

電話越しに聞こえるのは、寝惚けた彼の声。

「もうすぐ御宅へ向かいます。それまで起きていてくださいね?」

『努力はするぅ』

「…分かりました。それでは切りますよ」

いったん電話を切り、車に乗り込んだ。

彼の住む高級マンションまで、車で15分とかからない。

指紋と声、そして動脈のチェックを受け、カードを通してようやく中に入れる。

最上階のフロアは全て、彼のモノだ。

寝室に入ると…やはり二度寝していた。

「起きてください、社長。朝食の準備をしときますから、シャワーを浴びてきてください」

「んあっ…? ああ」

寝惚けてだらしのない彼は、コレでも世界に通用する宝石ブランドの社長だ。

若干36歳ながらも、世界を相手に商売をしている。

俺は彼の秘書で、25歳。

もう3年も彼の元で働いている。

社長をシャワールームに押し込んで、キッチンに立つ。

冷蔵庫のものは2日前に買い揃えたけれど、そろそろ買い足しに行った方が良いのかもしれない。

エプロンをして、朝食の準備にとりかかった。

そして朝食が出来上がる頃には、シャワーを浴び終えた彼が来た。

「おおっ、うまそー。良くオレが洋食食いたいこと分かったな」

「あなたの側にいれば、分かりますよ」

気分屋な彼は、扱いが難しい。

けれど年月を重ねているうちに、顔を見れば何となく分かってしまうようになった。

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